町田正聡
名前に「ニホン」がつきながら日本では未発見だった魚「ニホンイトヨリ」を国内で初めて鹿児島県・種子島沖で確認した、と鹿児島大学総合研究博物館やかごしま水族館=いずれも鹿児島市=の研究チームが発表した。230年前、日本産と誤認されて命名されたが、これまで国内では見つかっていなかった。
研究チームの論文が、日本魚類学会発行の魚類学雑誌電子版(4月30日付)に掲載された。
論文の共同筆者の本村浩之・鹿児島大教授によると、ニホンイトヨリは1791年、日本産と誤認された標本に基づき、ドイツの魚類学者が命名し、学名は「ネミプテルス・ジャポニカス(日本のイトヨリダイ)」に。1938年には日本の魚類学者が「ニホンイトヨリ」と和名を付けたが、その時も国内では確認されていなかった。最初の標本は現在では、インドネシア・ジャワ島周辺で採集された可能性が高いと考えられているという。
今回、国内で初確認された個体は2020年1月、種子島・西之表港で美座(みざ)忠一(ただかず)さん(70)=西之表市=が釣り上げた。体長約25センチで、釣った時は普通のイトヨリダイと思ったが、いつも釣れる魚ではないので、「何かの役に立てば」と本村教授に提供。調査の結果、模様やひれなどの特徴からニホンイトヨリと分かったという。
この種は台湾や東南アジアに多く生息しており、今回の個体は、台湾周辺で孵化(ふか)した直後に黒潮によって種子島沖に運ばれ、そのまま定着して成長した可能性が高いという。論文では今回の確認を「西太平洋域における分布の北限記録」としている。
美座さんは「国内初確認と聞いてビックリした。自分の胃袋に収めなくて良かった」。本村教授は「日本では幻の魚だと思われていた。黒潮などの偶然が重なった結果とはいえ、国内初の標本を直接手に取れ、感慨深い」と喜んでいる。(町田正聡)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル